2021年05月

涙があふれて

手術室に入り
私を乗せた車椅子は手術台のすぐ足下に
私は降りて手術台に仰向けになった

背後に 手術をする医師が 待ち構えていた
仰向けの頭がガクッと 少し くの字形に反った
片方の上腕に血圧計
もう片方の人差し指にパルスオキシメーター
医師が「マスク外しますね」と そっと外した
そして眼玉だけ残して後は薄青色のカバーに覆われた
助手が「ごめんなさいね」といいながら
一回二回と浸潤麻酔薬を点眼する
とたんに視界は重なる波に揺らぐ
上瞼と下瞼がぐぐっと引っ張られて固定された
局所痲酔たがら 周囲の声は聞こえる
しかし手術する方の眼はまぶしくて波間の光を見るよう

医者が大きな声で「黄斑上膜!」と念を押すかのように言った
そしてUFOのような無影灯が近づいたのか何なのか
緑色の三点が見えた
医者は「緑色の三点を見て下さい」と言う
しっかりと見るようにした

ここから手術が始まったのだ

最初は 白内障の手術だ
私は白内障ではなかった
しかし高齢者は硝子体手術を行うと白内障が出てそれが急速に進行することが多いらしい
そのため異常が無くても白内障の同時手術をするらしいのだ

白内障の手術は5分もかからなかったような感覚
医師が「レンズ下さい」 というのが聞こえた
そしてしばらくして「白内障手術終わりました」 いうのが聞こえた

それから「硝子体吸い出します」 という声
ジャッザッ ジャッザッ という音が繰り返し続く
痛みは全くないが 目ん玉は医師に全部預けている
私は ただ祈った
祈りに祈った
すがる祈りではない ただ 家族の名 氏族の名 霊界の父や母や親族の名 知人の名を

私は毎朝毎晩 そのようにして名前を挙げて祈っている
霊界は愛の世界だ 霊界の父母は親族は 地上に残した種である子孫のために必死になって愛で働きかけている その霊界の先祖に感謝し そしてその思いが地上の子孫に届き 子孫が愛の光で包まれ幸せであるように そして関わりのある人たちは全てソウルメイトだ そんなみんなが神さまを知り 神さまの愛に包まれ平和であるように よろこびで満ちるように
そう祈ってきた その 延長だ

拳を握りしめるかのように 祈りに祈った

そうしたら手術中なのに
感極まってきて
涙があふれてきたのだった