20240116

ノアの大洪水

大洪水のあと

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地上には、再び生命が躍動し始めた
これはいわば、地上の再創造のようなものである
ここからもう一度、理想世界を目指すのだ
愛と喜びに満ちた世界を
平和で、人が夢と希望を持つことのできる世界を

いま

洪水の悲しみを越えて

もう一度歩み出す

理想に向かって

***

神は思う

「大洪水によって多くの生き物たちが犠牲になった
できることならみんな連れだして生かしてあげたかった
万物には罪がない
万物には責められるいわれは全く無い
彼らとて 人の堕落した行為に忍耐してきた
人間の横暴な扱いに
どれだけ悲しみ どれだけ涙してきたか
未来への希望を見いだせずに
ただただ悲しみをこらえて生きてきたのだ」

そして神は 万物たちの優しさを思った

「彼らはいつも わたしを励ましてくれた
常に元気な笑顔を わたしに向けてくれた
涙を見せず
明るく振る舞い
心配しないで と慰めてくれた
つらさを隠して 大丈夫です
とこたえてくれた
そして
一生懸命に 愛してくれていた」

***

神はしばらく沈黙した

「最期におよんでも なお 彼らはわたしに
さようなら
と 笑顔を向けてくれた
それなのに
そんな彼らを 犠牲にしてしまった」

その時の場面が脳裏をかすめる

花が、草が、木が、動物たちが、
水の中に散っていった
見ると かれらは みな
安らかな笑顔を神に向けていた

***

植物の中には 濁流によって 根こそぎ引き抜かれてしまうものもいた
また
大きな岩が流されて かれらの上をゴロゴロと転がっていった
あっ という間に かれらはつぶされてしまった
しかし かれらは 何も言わず
つぶれたまま 黙って 沈んでいった
どの万物も 悲惨な中で消えていった

神の胸は
悲しみで痛んだ

神の胸を 無念の思いがしめつけた

「かれらとて
悲しくないわけがない
苦しくないわけがない
それなのに
かれらは 笑ってくれた
心が引き裂かれそうだ
私の中に傷が
その傷が痛む
しかし この痛みを忘れないでいよう
かれらが未来に託した思い
その思いを しっかり記憶にとどめよう
そして 未来につなげてあげよう・・」

神は
洪水の犠牲になった万物のために 泣いた

「わたしは あなたたちを忘れない
悲しみを笑顔で装ってくれた その優しさを
そのまこごろを わたしの愛するものたちよ
ありがとう・・」

***

まさに
洪水は 神の涙
そのものだった

***

そんな神の心情を
ノアも知ったのだった

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上記は
古川健治氏著「天啓 創世記物語Ⅱ」(ノア篇)より引用した